チェロ弾きの上司。


「で、本番まであと2週間だが、自信の積み重ねとやらはまだかな、モッチー」

……趣味でも嫌味言われるなんて、ほんと、上司とカルテットやるもんじゃないな。

ただいま、三神さん家でカルテット練習中。

あたしだって、今までにないくらい、練習してる。
朝練してるし、
残業しないように、お昼休みと午後のお茶休憩を削って、定時になるなり飛んで帰って、練習してる。

技術的にはそんなに難しくないから、音符は弾けるようにはなってる。

ただ、表現とか、音色とか、三神さんや真木さんのレベルと比較すると、到底及ばない。
お稽古ごととして楽器を習って、その延長でオケでみんなと一緒に弾いてきたあたしと、舞台で1人で弾いた経験のある彼らとでは、埋めがたい、大きな大きな差があるのよね……。

「いつになったら自信が持てるのか、見込みを言ってみろ」

「……暗譜するくらい弾き込んだら、でしょうか……」

「暗譜する必要ないだろ。譜面見ろ、置いておくんだから。その労力、他に使えよ」

アカリンがハラハラしながら、あたしと真木さんを見守っている。
大丈夫。仕事で慣れてるから。
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