チェロ弾きの上司。

というよりも！ お客様に失礼なことしちゃったよ！

ここのフロアにはうちの会社だけだから、見たことのないこの人はお客様に違いない！

「申し訳ございませんでした。お怪我はございませんか……？」

あたしが頑張って顔を見ながら言うと、彼は綺麗な眉をひそめ、何かを考えている。
雰囲気が怖くて、すぐに目を逸らした。

再び、彼のつやつや光る靴を眺める。

そんなに痛かったかな？
まずいな。怒らせちゃって、取引に影響したらどうしよう。

それにしたって。
そんなに怒らなくても……。
雰囲気が氷のようだ。
綺麗な人が怒ると余計に怖く感じる……。

と。
頭の上から声が降ってきた。


「今のチャイ5？ 4楽章は、G-durじゃなくてE-durだが？」


ーーーなっ‼︎‼︎
は、は、恥ずかしい！
もんのすごく恥ずかしい！

鼻歌聞かれてたなんて！

しかも音痴だって言われたようなもんだ！
どうせあたしに絶対音感なんてありません！

「失礼しましたっ！」

あたしは思いっきり頭を下げ、部屋へと逃げ込んだ。