チェロ弾きの上司。
そんなとき、廊下から声が聞こえてきた。
「早瀬先生が彼氏と一緒に来た! しかもめっちゃイケメン!」
「うっそー、見たーい!」
三神さんがため息をつき、廊下に出る。
「ちょっと静かにしてくれる?」
「あ、すみません」
「それに、彼氏じゃなくて、旦那さんだから」
「「ええええーーーっ‼︎⁉︎」」
練習室の中でも声が上がる。
あたしも叫んじゃったよ!
「早瀬先生、結婚してるの⁉︎」
「そりゃあれだけ美人ならば……」
「イケメンの旦那さん見てみたい!」
真木さんは平然としてる。
「ご存知だったんですか?」
「ガキの頃から、婚約者がコンクールに来てたからな」
その発言に、またも盛り上がる練習室。
「婚約者っ⁉︎」
「子どもの頃からっ⁉︎」
「やっぱりセレブなんだ!」
「終演後のお見送りスタッフやります!」
「あたしも! 絶対見る!」
「あのね、君たち、本番前なんだけど……」
練習室の隅で呆れる三神さんに、真木さんが片方の口角を上げて、楽しそうに言った。
「騒いでる奴らに旦那の正体ばらしてみたらどうだ? 静かになるぞ」
「真木って、ほんと性格悪い。本番前にそれは酷すぎる」
えー、気になる。
「知りたいか? 望月」
楽しそうな笑顔そのままに、あたしに話を振ってきた。
「結構です。本番が終わってから教えてください」
「ちっ、つまんね」