チェロ弾きの上司。

そんなとき、廊下から声が聞こえてきた。

「早瀬先生が彼氏と一緒に来た! しかもめっちゃイケメン!」
「うっそー、見たーい!」

三神さんがため息をつき、廊下に出る。

「ちょっと静かにしてくれる?」

「あ、すみません」

「それに、彼氏じゃなくて、旦那さんだから」

「「ええええーーーっ‼︎⁉︎」」

練習室の中でも声が上がる。
あたしも叫んじゃったよ!

「早瀬先生、結婚してるの⁉︎」
「そりゃあれだけ美人ならば……」
「イケメンの旦那さん見てみたい!」

真木さんは平然としてる。

「ご存知だったんですか?」

「ガキの頃から、婚約者がコンクールに来てたからな」

その発言に、またも盛り上がる練習室。

「婚約者っ⁉︎」
「子どもの頃からっ⁉︎」
「やっぱりセレブなんだ!」
「終演後のお見送りスタッフやります!」
「あたしも! 絶対見る!」


「あのね、君たち、本番前なんだけど……」
練習室の隅で呆れる三神さんに、真木さんが片方の口角を上げて、楽しそうに言った。
「騒いでる奴らに旦那の正体ばらしてみたらどうだ? 静かになるぞ」
「真木って、ほんと性格悪い。本番前にそれは酷すぎる」

えー、気になる。

「知りたいか? 望月」
楽しそうな笑顔そのままに、あたしに話を振ってきた。

「結構です。本番が終わってから教えてください」
「ちっ、つまんね」





< 96 / 230 >

この作品をシェア

pagetop