それぞれの崩壊
ふと気がつくと、僕は真っ白な部屋の、真っ白なベッドの上にいた。ツンとくるエタノールの臭いと塩ビの床の無機質な臭いが混じった臭いは、まさしく病室のそれであった。
 
「またですか」
 
耳慣れた声が飛び込んでくる。
 
僕がそちらに目を遣ると、見たことのある看護士がいた。
 
(またですか)
 
そう、僕があの発作を起こして病院に運ばれるのは、これが初めてでは無かった。この看護士にも、この発作で病院に運ばれた時に出会った。
 
彼女は点滴袋を手慰みに少しいじると、ニコリと微笑んで出ていった。
 
それと擦れ違い様に、医師が入ってきた。彼は白衣ごしにもはっきり分かるくらいの太鼓腹を摩りながら、ふうっと溜息をついた。
 
「…今回もやはりショック性の貧血ですね。この前に処方した鉄分補強剤はちゃんと飲まれてるんですか?全く、薬もちゃんと飲まずに倒れて病院へ来られても、私としては…」
 
僕はこの医師の話など聞く気は無かった。どうせこの人に何を言っても分かってくれない…。
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