それぞれの崩壊

初めてここに運ばれて来た時、この医師は僕の言った事を聞いて、馬鹿にするような目付きを浮かべた。
　
　
「人の痛みを感じてしまう？それは貴方が気を失っていく時に感じる幻覚ですよ。根本的に貧血を治さないと、どうしようもないじゃあないですか」
　
彼は嘲笑うようにそう言うと、「処方箋を出しておきますね」と面倒臭そうに付け足して、奥の部屋に消えた。
　
　
そう。僕には「人の痛みを感じてしまう」能力がある。
　
痛みを感じている人を見ると、その痛みが僕の方に乗り移ってくる。
　
　
初めてそれを経験したのは、小学生の頃だった。
　
ある休み時間、僕は友達とバスケットボールをしていた。友達がふざけてゴールによじ登り、「ダンクシュート！！」と叫びながらゴールリングに飛び移ろうとしたのだ。
　
しかし、友達はリングを掴めず、そのまま転落した。彼は凄い声を出しながら、うずくまっていた。
　
もちろん僕は倒れている友達に駆け寄った。そして僕は見てしまったのだ。
　
有り得ない方向に曲がった、友達の右足を。