それぞれの崩壊
ふと回想から我に帰ると、僕のベッドの横にあの看護士がいた。
 
「どうなさったんですか?ボーっと何か考え込んでしまって」
 
悪戯な、しかし優しくて真っ直ぐな微笑みだった。
 
「何でも無いんです。それより、どうして此処へ?」
 
僕は曖昧な、彼女のそれとは正反対な笑みを浮かべ、ごまかすように質問を質問で返した。
 
「ええ今当直が終わって…今日は早上がりなんです。何だか、あなたの事が気になって……そんな事より、やっぱり何か悩みがあるんでしょう?何でも相談して下さい。」
 
彼女は少し言葉を詰まらせたが、すぐに屈託の無い笑顔に戻った。
 
何故だろうか、その笑みが、少し悲しげに見えた。僕の胸がズキリと痛んだ。
 
この人には、話しても良いんじゃ無いのか?いや、話さなければいけない気がする。
そう思った。
 
彼女の発する、その優しい暖気のようなものに吸い出されるかのように、僕はさっきまで回想していた事を、全て話した。
 
不思議だった。いつもならば思い出す度に痛みが蘇るのに、その時はただ有りのままに、思い出話でもするように話せたのだ。いや、むしろ心地良かったと言っても良い。
 
まるで痛みの記憶を、彼女が吸い出してくれているようだった。
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