それぞれの崩壊
僕は全てを話し終えると、彼女の胸に縋り付いた。何故だか分からない。無意識だった。ただ、僕の中に彼女への好意が芽生えていたのは確かだった。
 
しかし同時に、自分は何と愚かな事をしたのかと気付いた。彼女はただ単に、一人の患者に対して少し気を効かせただけなのだ。僕が勝手に勘違いを起こしたのは確かで、彼女は次の瞬間には僕を突き飛ばすだろう。僕は彼女の心を著しく傷付けてしまったであろう。いくら弁解しても、彼女が僕に微笑みを向けてくれる事は二度とないだろう。
 
 
自責の念に駆られる僕の頭を、ふわり、と柔らかい感触が包んだ。
 
温かかった。その時間は、永遠にも感じられた。僕の頭に温かい雫が落ち、それは彼女が僕の為に流したものだと分かった。
 
「私には…」
 
彼女が言葉を発した時、僕は反射的に身を起こした。彼女の言葉を、正面から聞いていなければならない。そう思った。
 
「私には、あなたに何もしてあげられない。本当に情けないけれど…私が無責任にかけられる言葉なんて…」
 
そう言う途中で彼女の言葉は濁り、また涙に変わった。
 
今度は僕が、彼女の頭を自分の胸に抱き寄せた。出来ることなら、彼女に背負わせてしまった心の重みを、すっかり取り戻してしまいたかった。
 
「すまない。僕のせいで君が悩む必要なんか無いんだ…。これは僕自身の問題。自分で解決するよ」
 
彼女は僕の胸の中で、首を横に振った。そして顔を上げると、また笑顔に戻った。
 
「いいえ、私にも何か協力させて。力になりたいのよ」
 
僕の胸が、またズキリと痛んだ。
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