不器用ハートにドクターのメス
不器用ハートにドクターのメス
看護師はすり減る
◇ ◇ ◇
空気が重い梅雨が明けて、そう間のない七月の初旬。
今年の夏は猛暑になります、とニュースで言われていた通り、ここ数日だけで見ても、気温はめきめきと、上昇の一途をたどっていた。
セミは四方八方から、競うようにけたたましく鳴き、太陽は余すところなくふりそそぎ、世界をゆらめかせている。
……だがしかし。
セミの羽音が全く聞こえない、日光も全く差し込まない部屋に、本編の主人公である福原真由美は、立っていた。
その部屋というのは、大学病院の東館、5階に位置する第2オペ室。
そして、真由美の耳に届き、頭上に落ちてくるものはというと、
「~なんで用意してねーんだよ!?」
隣に立つ執刀医の、強烈な叱責だ。
ヒッと心臓を飛び上がらせた真由美に、容赦ない言葉は、間をおかずに降りそそぐ。
「血管処理の剥離後は絹糸って流れが鉄則だろうがっ!!」
「すみません!」
「どうでもいいことで時間食わせんな!!」
「……っ、すみません!!」
声がふるえそうになり、真由美はあわてて、くちびるを噛みしめる。
目下に露出している、握りこぶし大の心臓。
全身に血液を送る役割を持つ中枢器官に、執刀医の手が、よどみない動きで触れていく。
焦るな。集中しろ。次の手順はなにか。必要な器械はどれか。
何度もたたきこんだはずの知識を、真由美は必死で、頭から引っぱり出そうとする。
だが、引っぱり出そうすればするほど頭が回らなくなり、しまいには息まで止まりそうになってしまう。
空気が重い梅雨が明けて、そう間のない七月の初旬。
今年の夏は猛暑になります、とニュースで言われていた通り、ここ数日だけで見ても、気温はめきめきと、上昇の一途をたどっていた。
セミは四方八方から、競うようにけたたましく鳴き、太陽は余すところなくふりそそぎ、世界をゆらめかせている。
……だがしかし。
セミの羽音が全く聞こえない、日光も全く差し込まない部屋に、本編の主人公である福原真由美は、立っていた。
その部屋というのは、大学病院の東館、5階に位置する第2オペ室。
そして、真由美の耳に届き、頭上に落ちてくるものはというと、
「~なんで用意してねーんだよ!?」
隣に立つ執刀医の、強烈な叱責だ。
ヒッと心臓を飛び上がらせた真由美に、容赦ない言葉は、間をおかずに降りそそぐ。
「血管処理の剥離後は絹糸って流れが鉄則だろうがっ!!」
「すみません!」
「どうでもいいことで時間食わせんな!!」
「……っ、すみません!!」
声がふるえそうになり、真由美はあわてて、くちびるを噛みしめる。
目下に露出している、握りこぶし大の心臓。
全身に血液を送る役割を持つ中枢器官に、執刀医の手が、よどみない動きで触れていく。
焦るな。集中しろ。次の手順はなにか。必要な器械はどれか。
何度もたたきこんだはずの知識を、真由美は必死で、頭から引っぱり出そうとする。
だが、引っぱり出そうすればするほど頭が回らなくなり、しまいには息まで止まりそうになってしまう。
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