不器用ハートにドクターのメス
昨晩なかなか寝付けなかったせいで、ただでさえいかつい真由美の顔は、普段よりいっそう険しさを増している。
鏡の中に映り込む姿は、とてもこれから男性と出かける女性とは思えないほど、凶悪だ。
どこに行くか、何をするのか。そういった本日の詳細は、まだ神崎から伝えられていなかった。
わかっていることは、とりあえず神崎が、十一時ごろに車で迎えにきてくれるらしい、ということだけだ。
――車で迎えに。
その語の響きだけで、真由美はすでにドキドキしてしまっている。
このわたしが、男の人と一緒に出かけることになるなんて。しかも車で、なんて。なんだかものすごく大人だ。いや、もう年齢的には大人だけれど。でも。
自分にツッコんだり、再び服に悩んだり、髪を撫でつけたり、カバンの中身をチェックしたり。
それらの行為を数回繰り返していると、外から車のエンジン音が聞こえた。
そわそわしながら、真由美は窓に歩み寄り、外の様子をのぞく。と、家のそばに、一台の車が停まるのが目に入った。
……来た。神崎先生の、車だ。
約束の時間よりまだ10分ほど早かったが、真由美はカバンをひっつかむと、あわてて部屋を飛び出し、階段を駆け下りていく。
そのままの勢いで靴を履き、いってきます、と家を出る予定だったが……階段を降りたところで、真由美はぎょっとして足を止めてしまった。
なぜなら、玄関に、まるで殿様を待つ従者のように、父と母が待機していたからだ。