不器用ハートにドクターのメス
真由美の母はこれ以上なくにんまりした表情、父はものすごく複雑そうな顔をしており、そして二人はなぜか、ばっちり靴を履いていた。
「あ、あの……」
「今から行くんでしょう?神崎先生と」
“神崎先生”にアクセントを置き、「お見送りしようと思って」と軽快に言葉を弾ませる母親に、真由美は首だけでなく、全身をぶるんぶるんと振って拒否した。
「~で、出てこなくていいからね!?」
そんな大げさな、と必死に訴える真由美だが、その焦りは全く伝わらないようで、母親はきょとん、と首を傾げてみせる。
「なんで?お父さんと先生に挨拶するわよ」
「~いいっ!しなくていいから……!!」
珍しく声を荒ぶらせ、真由美は何度も「出てこないでね!?ね!?」と念押ししたあと、逃げるように家を後にした。
鼓動を整える間もなく飛び出てしまった、家の外。
数メートル先には、先ほど家の中から見つけた、黒い車が停まっていた。
目線を泳がせ、息を何度も飲み込みながら、真由美はその車に近づいていく。
フロントガラスの向こうに、ハンドルに軽くもたれかかり、ほんのりと笑っているような神崎の顔が見えてきて、真由美はカバンを持つ指先を、そわそわと動かした。
ぺこりとお辞儀をして、さらに近づき、車の助手席側に立つ。
神崎の黒い車を、明るいところでちゃんと見るのは、初めてのことだった。
前々回乗せてもらった際は日がすっかり落ちたときであったし、前回は明け方で、まだ外は薄暗かった。