不器用ハートにドクターのメス
車を走らせて三十分少々。たどり着いたところは、郊外にある、一軒のログハウスらしき建物だった。
神崎が車を降り、それに倣って真由美も降りる。
車の外で呼吸をした瞬間、無事地球に戻って来られた、と真由美は思った。
車内では、緊張しすぎて、息の音まで気になってしまい、うまく呼吸ができなかったのだ。軽い宇宙空間にいたようなものだった。
やっとまともに酸素を摂取できたところで、真由美の頭はやっと正常に動き始める。
……この建物は、いったい何をするところなんだろう。
きょろきょろしていると、入り口だとおぼしきところに、小さな黒板が置かれているのが目に入った。
“当店一押し・パンケーキランチ”
黒板に書かれていたその文字に、真由美は二、三回瞬きをする。
ランチ。そういえば、まずは飯って言われたんだっけ、と、その瞬間に思い出す。
……ここ、ご飯やさんなんだ。
回答を得ると、気分がぐんと上向きになるのを、真由美は感じた。
見た目にそぐわず、可愛いもの好きの真由美だ。
木製の外装にも、黒板の丸っこい文字にも、パンケーキという語にも、自然と心は弾んでくる。そして。
「わ……」
神崎に促されて店内に入ったとき、真由美の心は、さらに軽やかなステップを踏んで踊った。
神崎と真由美を歓迎したのは、なんと、大きなテディーベアだった。
店に入ってすぐのところに、小学生ほどの大きさの栗色のテディーベアがどんと置かれており、その周りにも、多少毛の色を変えた小さめのベアたちが座っている。