不器用ハートにドクターのメス
そこだけではない。店内には、とても簡単には数え切れそうもない数のテディーベアが、存在していた。
各テーブルの端に一匹ずつ、窓際にも置かれ、天井からも違う種のベアがぶら下がっている。
「いらっしゃいませー!二名様ですか?」
「はい」
声をかけてきた店員に、神崎が答える。
店員のウエイトレスウェアも、カントリー風のチェックでとても可愛らしく、真由美のテンションの高ぶりを増幅させた。
……知らなかった。郊外に、こんなに素敵なお店があったんだ。
席に案内され、神崎と向かい合って腰を下ろした真由美は、深く感動してしまう。
真由美たちのテーブルに置かれているテディーベアは、まるで羊のように白くてモコモコした素材でできており、目が少し離れているのが愛らしい。
とても可愛い。というか、目に入るもの全て可愛い。全部写真に収めてしまいたい。
そんな風に思って、きょろきょろ目移りしながら顔をほころばせていると、ふと、正面に座っている神崎と目が合った。
スキップをしていた心臓が、また違った方向に、大きく跳ねる。
神崎の視線には、いつもの鋭さはなかった。
真由美に向かうのは、どこか優し気な視線であり、気恥ずかしくなった真由美は、睫毛を伏せ、肩をすぼめた。
なんだか、胸の奥が、とてもこそばゆかった。
「……見事に女ばっかだな」
少しやりにくそうに、神崎が言った。
それまでクマたちに目を奪われて全く気付かなかったが、言われてはじめて、真由美も気づく。