不器用ハートにドクターのメス
神崎は、大変手慣れた様子で、次々と一口サイズにパンケーキを切り分けていく。滑らかなフォークとナイフさばきは、とても様になっていた。
その動きに、真由美は無意識のうちに、脳内で、オペ中の神崎の手技を重ねていた。超高速でいっさいの淀みがない、正確な手技を。
やっぱり、と真由美は思う。
……やっぱり、先生は手先が器用な人なんだなぁ。
料理も洋裁も、やってみればなんでもできそうだ。でもやっぱり、先生にはオペが一番しっくりくるけれど。
「……なんだよ」
そんな真由美の熱視線を感じ取ったらしい。
神崎はきまり悪そうに、真由美にちらりと視線を投げ寄こした。
真由美ははっとして、小刻みにふるふると首を振る。
「あ……す、すみません。その……先生は、パンケーキを切るのも、お上手なんだなぁって、思って……」
真由美がそう言った瞬間、神崎の手がぴたりと止まった。
数秒、静止の時が流れた。真由美は喉をひくつかせながら、おそるおそる声を絞り出す。
「あ……あの……?」
「……あんま見んな」
ほぼ同時に、神崎が言った。
真由美を軽くにらんで、視線を斜め下へと落とす。その様子に、真由美は失態を犯してしまったかと、慌てふためいた。
「す、すみません……っ」
……気を悪くしてしまっただろうか。
口に出した以上に、心の中ですみません、と何度も繰り返し、真由美はこうべを垂れた。
神崎が照れているなどとは、全く考えつかないようだ。