不器用ハートにドクターのメス
軽快かつ突拍子のない提案に、神崎はドスの効いた低い声で応戦する。
赤子が聞けば泣き出してしまうような声だ。
しかし、長年の付き合いですっかり慣れているせいか堂本に対する威嚇にはならないようで、堂本は口角をあげたまま、涼やかな声で続けた。
「お前と同じで、結婚に興味がないけど、まわりから色々言われてうんざりしてる女を見つけてさ。形だけ籍を入れるんだよ。そうすればお互い自由なまま、まわりからあれこれ言われることもなくなる。な、いい考えだろ?」
なにを馬鹿なことを、と神崎は失笑すらせずに、目を細めた。
堂本は一見さわやかな常識人に見えて、案外腹黒く、快楽主義者な一面も持っている男だ。
善人とは言い難いーーそういう食えない面を神崎は気に入ってはいるのだが、さすがに冗談でも偽装結婚なんてものを自分に向けて提案されては、笑って同調することなどできなかった。
「なあ、周りにいないのか?結婚に興味なさそうな女」
「……知るか。だいたい、興味なさそうな女ってどういうのだよ」
目元を歪めながら、神崎はそう言い捨てる。
神崎が知る限り、女とはいつだって結婚したがる生き物だ。
今はする気ないんだよね、と豪語する女だって、心の中ではいずれはと考えている。
結婚を拒否する女になど、神崎は出会ったことがない。
「うーん……言われてみれば難しいな」
神崎の質問に、首をひねって堂本が答える。
「そうだな。男嫌いで……人と群れない女とか?一人が大好き、的な」
「な……」