不器用ハートにドクターのメス
なんだそりゃ、と堂本の適当な返しを一蹴しようとして、神崎はふいに言葉を止めた。
男嫌いの群れない女。その語を受けて、頭にぱっと浮かんだ顔があったからだ。
ふと思い浮かんだ顔。
それは今日、自分のオペについた新人オペ看――福原真由美の顔だった。
日常生活ではそう感情を荒立てない神崎だが、オペの際は別だ。
患者と相対している真剣な場で中途半端なことをされると、神崎はその相手を、容赦なく叱責する。
手加減などできない。そのため、決して故意ではないもののオペ看を萎縮させてしまい、なかにはオペ中に泣きだすものもいる。
新人はとくにそうで、ほぼ十割の確率で泣く、もしくは涙ぐむ。神崎はその現象を、当然のように思っていた。
ところが今日、真由美は泣かなかった。
どれだけ怒鳴ろうが辛く当たろうが動じなかった。
それどころか、まるでケンカを売るようににらんできたものだから、神崎は逆に驚かされる羽目になったのだ。
あまりにも珍しすぎて、どんな顔のやつだったか……と、なんとなくオペ後に出待ちをしてしまったくらいだ。
プライドが高そうな女はいくらでも相手にしてきたが、あそこまで敵意をむき出しにしてくるタイプは初めてだ、と神崎は思う。
結婚に興味がない女。漠然とだが、あいつはそんな感じだなと、神崎は考える。
あれは結婚に興味がない以前に、人間自体を嫌っていそうな女だ。
ただ、慣れ合わない、他人にこびへつらわない感じは、いくらか自分と似ているかもしれない。