不器用ハートにドクターのメス


「お帰りなさい、真由美!!」


それからしばらくして、ふらふらとした足取りで帰ってきた娘を、真由美の父母は熱烈に迎え入れた。

予想通り、母親はすぐに「神崎先生は!?」と真由美に尋ね、もう帰ったとの旨を伝えると、がっくりと肩を落としてしょぼくれた。

父の方は無言を貫いていたが、その後一緒に囲んだ食卓でも、母は真由美に質問攻めだった。

どこに行ったのか。何をしたのか。

色恋に全く縁のなかった娘が、ハイスペックな男前とデートに出かけたという事実に、興奮と嬉しさを隠しきれないようだった。

質問一つ一つに対し、真由美は時折誤魔化しつつ答えたものの、自分の口から出てくる言葉が、何となく上滑りしているような感覚をおぼえていた。

心ここにあらずだった。

食事をしていても、話をしていても、片付けをしていても……何をしていても、気はそぞろだった。


「疲れただろうから、もうお風呂、入っちゃいなさい」


夕食が終わってしばらくしてから、母親が入浴を勧めてきたので、真由美はその言葉に従い、すぐに脱衣所に向かった。

福原家では、家族みな平等であるべきということから、風呂の順番は毎日ローテーションとなっている。

今日はちょうど、真由美が一番風呂の日だった。

浴槽に張った湯の中に、ぽちゃん、と体を浸す。

昨日が三番風呂だったため、肌に触れる湯を、ずいぶん熱く感じる。

一人きりの空間で、真由美は、湯にぼんやりと映り込む自分の顔を見つめる。

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