不器用ハートにドクターのメス

先生は優しいから。わたしなんかのために、行きづらい場所を選んでくれたり、わたしの本当の気持ちを汲み取ってくれたりするような人だから。

それに……キス、は。

くちびるに火照りを覚えながら、真由美は脳みそをフル回転させ、考える。

よくわからないけれど、大人のデートでは当然なんだ。きっと。

挨拶みたいなものだ。先生はあんなにかっこいいんだから、きっと女の人の扱いにも慣れているだろう。

男女で一緒に出かけたなら、キスくらいしとかないと悪いと、そんな風に思ったのかもしれない。

他の意味なんて、あるはずがない。

わたし相手に、そんなこと。

気にしない、気にしない……と、どれだけ言い聞かせても、神崎との出来事は、真由美の頭を離れていってはくれなかった。

脳内で明瞭に再生されすぎて、まるで、実際に目の前に見ているかのようだ。

このままだと茹でダコになってしまいそうだったので、風呂をさくっと切り上げた真由美は、手早く髪を乾かすと、早々に自室へと上がった。

ピンクだらけの部屋で、ぼすんと、ベッドに身を投げる。


「はぁ……」


漏らしたため息は深い。とても、いつものように予習をできるような心境ではなかった。

今日はすごい一日だったと、振り返って、真由美は思う。

数日前、体調を崩して神崎に助けてもらった日も、真由美は同じような感想を抱いていたが……今日真由美が過ごしたのは、それよりもずっと強烈で、濃厚な時間だった。

クマーヌの抱き枕を抱きしめつつごろっと寝返りを打つと、ふいに、カバンについているクマのストラップが目に入った。

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