不器用ハートにドクターのメス
胸が絞られたように、甘く痛む。
……なんだろう、この変な気持ちは。
込み上げてくる、経験したことのない不可思議な焦燥感に、真由美は強く、くちびるを結ぶ。
ドキドキして、落ち着かない。寝転んでいるのに不安定で、足下がふわふわしている。
何かに、背中が引っ張られているような気がする。
臓器が全部、いつもと違う変な動きをしている気がする。
ふいに、キスのワンシーンがまた頭をよぎり、真由美は慌てて、自分に言い聞かせる。
ちがうちがう。あれに、特別な意味なんてないんだ、と。
大人のデートとは、好きじゃなくても、それくらい当たり前にするものなのだ。
別れの挨拶みたいなものなんだ。
さっき風呂場で考えた言葉を、呪文のように繰り返す。
それに……と、真由美は逆に寝返って、息をつく。
こんな風にわたしが意識してしまうのは、単に、キスをするのが初めてだったからに違いない。
だってもし……そんな可能性はこれっぽっちもないけれど……もし、ほかの人にキスをされていたとしても、わたしは同じ反応をーー
そう考えて、真由美ははっとした。
他の人間……身近な同期などを例に挙げて想像してみると、今のような気持ちにはならないと、気づいたからだ。
気まずく思うかもしれない。でも、こんなに過剰なドキドキは、生まれてこない。
……初めてだった、からじゃない。
真由美は自分で、自分の中にある本音に気づいていく。
初めてだったからじゃなくて、その相手が、先生だったから。