不器用ハートにドクターのメス

執刀医は目撃する

◆ ◆ ◆


世の中には、数え切れないほどさまざまな職種が存在している。

外で行うもの、中で行うもの。じっと机に向き合って行うもの、動いて行うもの。制服があるもの、ないもの。

その中の一種、”外科医”という職業の仕事内容を説明するとすれば、まず第一に上がってくるのが、オペの施行だろう。

メスを手にし、患者の体に巣食う病魔に臨む。

テレビドラマのワンシーンのような映像が、我々の脳内に、容易に再現されるに違いない。

しかし、外科医が実際に行う仕事は、決してオペだけではない。

オペ後の回復待ちで入院している患者の回診を行いに、外科医はしょっちゅう、入院棟にも出向く。

そしてまた、退院した患者の経過観察を行うため、外来診療を行うことも、重要な任務の一つだ。

外来診療の部屋は、手術部と同じ東館の1階にある。

神崎の所属する心臓外科の診療室は三部屋で、オペのスケジュールと被らないよう、心臓外科医内でローテーションして使用されている。

部屋の前の待合い椅子は、常に満員御礼だ。

多いときでは午前中に二十人もの患者を診なければならないため、一人一人に長々と時間を割いていては、とうてい回らない。

なので、ドクターはみな、患者が退院後に異常をきたしていないか入念に調べねばならないものの、必要最低限の時間で切り上げ、できるだけ回転数を上げることを要求される。


神崎は、その点において、大変優秀だった。

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