不器用ハートにドクターのメス
検査結果を堅実に見極めることはするが、患者と余分な雑談は一切せず、必要事項のみを聞き、報告事項を短い言葉で告げる。
元々、神崎は、人とのコミュニケーションを面倒がるきらいがあることにくわえ、できることならずっとオペをしていたい人間だ。
外来はとっとと終わらせて手術部に戻りたいというのが、正直な本音なのである。
そういうわけで神崎は、患者にも外来看護師にも、腕はすこぶるよいが愛想はすこぶる悪いことで、周知されていた。
「……なのに、どうしたの?」
午前中、外来の診察室。
ちょうど十人目の患者を送り出したばかりの神崎にそう聞いてきたのは、外来看護師の香山だった。
パソコン前のイスに座った神崎は、チンピラさながらの低い声で「あ?」と振り返る。
「今日変じゃない?いつもより熱心に話聞いちゃって」
飄々とそう口にする香山は、三人の子を持つ、看護師歴二十二年のベテランだ。
たれ目かつふくよかな体型でデンと構える様子は、七福神の宝袋尊に酷似している。
その、よく言えば癒し系外見の香山に向かって、神崎は、癒しが微塵もない怪訝な表情を差し向ける。
しかし、肝っ玉母ちゃん気質の香山は他の看護師とは違い、神崎に臆することなく、ずばずばと言葉を続けた。
「だって神崎先生、いっつも超事務的じゃない。有無をいわさぬ口調っていうか、患者さん明らかに萎縮してるし。暑さにでもやられた?」
「……うっさい。入力終わったから次呼べ、次」