不器用ハートにドクターのメス

そんな真由美とのやり取りを通して、神崎の中に、他者の話を聞くことは時間のロスではないのかもしれないーーという考えが、自然と生まれていた。

重要なことが聞けたり、相手のわだかまりや不安もなくなったりという、一石二鳥だって起こり得ることを、知ったのだ。


「先生、ありがとうございました!!」

「お大事に」


また一人患者の診察を終え、神崎は、本日何度目かになる、送り出しのセリフを口にする。

いつもの切り捨てる感じではなく、自分の発言を聞き入れてもらった患者は、心なしか満足そうだ。

香山のにんまりした視線を横から受け、神崎は決まり悪そうに耳の裏を掻き、心内でぼやく。


……今まで、自分は誰からも影響を受けにくい人種だと思っていたのに。

何があっても意志を曲げなかった。

人にどう思われようが、どう言われようが、全く構わないはずだったのに。


……それなのに。だからこそ。


今まで積み重ねてきたスタンスが、こうも簡単に揺らぐことに、神崎自身も、驚きを隠せないのだった。





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