不器用ハートにドクターのメス
外来患者がやっと途切れたのは、午後1時を過ぎたころだった。
14時からはオペが入っているので、休憩らしき休憩はとれない。
昼食はなくて構わなかった。腹が満たされてしまうと集中力が途切れるため、神崎は基本、朝晩の二食で済ませることが多いのだ。
ただ、切り替えにタバコだけでも吸おうと、正面玄関へと足を向かわせる。
非常階段が神崎のベストスポットなのだが、そこを使うのはオペ後限定。
今は一階にいるわけで、ここからだと、職員用喫煙所に行く方が圧倒的に近かった。
白衣のポケットを探りながら、自動扉をくぐって外に出る。
「……あ」
……と、なんとも偶然なことに、神崎は数メートル先に、真由美の姿を発見した。
向こうも神崎に気づいたようで、足を止め、目を丸くして息を飲んでいる。
「……福原」
神崎が一歩踏み出し、言葉をつごうとした瞬間。
真由美は、首がもげるのではないかと心配してしまうほどに勢いよく首を回し、ばっと視線を逸らした。
「お、お疲れ様です……!!」
早口でそう言い、神崎が立っているのと微妙にずれた角度の方向に一礼して、駆け足で去っていってしまう。
その場に取り残された神崎は、口内に生まれた苦さを飲み下し、かすかに顔を歪めて、あることを確信した。
……どう考えても、避けられている。
「んだよ……」
何度も同じようなことが重なれば、さすがに気づくというものだ。
数日前から、神崎は、真由美とろくに言葉を交わしていなかった。