不器用ハートにドクターのメス

神崎が話しかけようとしても、先ほどのように視線をそらされ、逃げられてしまうのだ。

避けられる理由が、一緒に出かけた日のキスだろうなということは、わかっていた。

数日前、神崎は真由美と出かけ、その帰り際、不意打ちで真由美にキスをしてしまったのだ。

気まずくなるかもしれないとは、予想していた。

案の定避けられたわけで、最初は照れからきているのだろうと思ったが……こうもあからさまに続くと、照れているだけではないのではと、疑念を抱いてしまう。

いっそ謝っておいた方がいいのか。

そう思い、早朝に事務室に出向くこともしてみたが、自分を徹底的に遠ざけるつもりなのか、真由美の姿はそこになかった。

面白くない、と、神崎は小さく舌を鳴らす。


……面白くない。面白くないを越えて、不服に感じている自分がいる。

なぜだ、と思う。あいつに、だけじゃない。自分にもだ。


あの夜。一緒に出かけた日……決して、キスをするつもりなどなかった。

そういう行為に及ぶとき、自分を動かすのはいつだって、感情ではなく、まず思考だった。

キスは女を陥落させるための手段の一つであり、ここでこうすれば有効的だという策略を、ごく自然に脳内で作っていた。


けれどあの瞬間は違っていた、と、神崎は苦虫を噛み潰したような顔になる。


たまらない衝動が、自分の中に走っていた。

制御が効かなかった。まるで、時を遡って中学生にでも戻ってしまったかのようなーー

< 139 / 260 >

この作品をシェア

pagetop