不器用ハートにドクターのメス

この33年間の経験から、神崎は、自分には何か欠けていて、真に女を好きになることなどできないと確信していた。決めつけていた。

けれど今、目の前の旧友から出しぬけに当てはめられたその答え。

まるで、白球がミットにズバアンと収まったかのような、そんな見事な当てはまり具合に、神崎は言葉を失った。


恋?まさか。

……まさか。


「ま、うまくいったら紹介してくれよ」


混乱してフリーズする神崎など見たことがないと、堂本は存分に観察したあと、楽しげな軽い声で、そう言った。



店を出て、堂本と別れた後。

神崎はとくに他の場所に立ち寄ることもなく、真っ直ぐ、駅方向に向かって歩き出した。

車道の側を通ると、排気音と共に、白く眩いヘッドライトが目まぐるしく通り過ぎていく。

そのせわしなさに、胸底をかき立てられるような気がした。

神崎は今、戸惑いの渦中にいた。

心ここにあらず、という状態を、人生で初めて、味わっていた。


俺は、福原のことが、好きなのか……?


信じられない思いで、自分に問いかける。そんな馬鹿な、という疑いが、まだ胸にあった。

この年まで、まともに恋愛などできた試しがないのだ。

彼女を作っても、その彼女に対して独占欲も愛着も湧かなかった。

それどころか、恋愛に溺れる人間のことを、心のどこかで馬鹿にしていた。

それによって、無意識に、自分の恋愛不適合さを正当化していたのかもしれないが。

一生、訪れるものではないと、思っていた。

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