不器用ハートにドクターのメス
宙に視線を投げながら、神崎は嘆息する。
なのに今になって、変わるものなのか?
突然?こんなにも簡単に……?
好きじゃない。好きなわけがない。
好き、なのかもしれない。
芽生えた疑惑は、徐々に確信めいていく。
明確になり、立体感を帯び……そうすると神崎は、居ても立っても居られない気持ちに襲われた。
顔が、不自然に熱くなる。
嘘だろ、と思う。信じられないと、何度も思う。
拳で胸を打ちたい衝動に駆られる。
公共の場でそんなことはできるはずがなく、堪えると、さらに胸の疼きがたまっていく。
真由美のことばかりを、思い出してしまう。
「は……、」
短く息を漏らして立ち止まり、神崎は自分に再度、問いかける。本当に。
俺は本当に、福原のことが、好きなのか……?
立ち止まっている神崎を、数人の通行者が追い越していく。
街中に立ち尽くしているのも不自然だ。そう思い、再び歩き出そうとした、その時だった。
「……っ!」
一瞬、考えすぎて出てきた幻覚なのかと、馬鹿なことを思った。
車道を挟んだ、向こう側の道。行き交う車の間に、神崎は、真由美の姿を見つけたのだ。
真っ直ぐな黒髪。決して目立つ服装ではないものの、すぐに目を引かれた。間違いなかった。
……福原だ。
そう確信した瞬間、心臓の血管がぶちりぶちりと音を立てて引きちぎれるような。
体の奥にある導火線に火がついてしまったような感覚が走り……神崎は、とうとう悟った。