不器用ハートにドクターのメス
導火線の火が、チリチリと伝うスピードを速め、根元にまでたどり着く。
あり得ないだとか、今まではどうだったとか、そういう思い込みに囲われて隠れていた感情が、爆発する。
「……っ、馬鹿か……」
くちびるから、言葉がこぼれていた。
いったいいつからだったのか。いつから始まっていたのか。
自覚するのに、ずいぶん時間がかかってしまった。もうとっくに。
……自分はとっくに、福原真由美のことが、好きだったのだ。
完全な自覚は、神崎に、まるで無防備な幼い子どもに戻ったかのような錯覚を与えた。
自分がしてきたこと。頭に手をのせたり、体を抱えたり、悩みながら調べ、デートプランを立てたり、勢いでキスをしたり。
その何もかもが、今さらひどく、恥ずかしいことのように思えてきた。
興味はいつの間にか、恋慕に変わっていた。
俺はただ、福原のことが好きだったから、あんなにもおかしくなり、我を失い、必死になっていたのだ。
数メートル先にいる真由美から、目を離せずに、神崎は思う。
今すぐ向こう側に渡って、声をかけたい。手を引きたい。
次々と芽生える幼い思い。けれどその衝動に従ったところで、その後どうすればいいのかがわからない。
今まで散々、女に接してきた経験はあるのにも関わらず、本物の恋慕の気持ちを抱えてしまった今、神崎は、身動きが取れなくなっていた。