不器用ハートにドクターのメス
でも、どうしてこんな時間に一人で街にーー
そう心配して、神崎ははっと、息をのんだ。
目を見張った。真由美は、一人ではなかったからだ。
真由美には、連れがいた。
少し前を行く男に、真由美の方から駆け寄り、その腕に軽く、自分の手のひらを添えたのだ。
それは、恋人に甘える仕草そのもののように、神崎の目には映った。
数メートル先の光景から、神崎は目をそらせなかった。
男が真由美を見て、笑った。優しげな風貌の、見たことのない男だった。
そして笑顔を向けられた真由美は、とても柔らかく笑い返していた。
それは、心から安心しているような、真由美が生まれつき持つ顔の怖さすらも和らげるような、笑みだった。
「ーーーー」
喉の奥に、何か熱いものがほとばしった。
真由美への気持ちを自覚したつい先ほどでも、かなりの衝撃だったのだが……その後すぐに突きつけられた映像は、神崎にさらなる衝撃を与えていた。
……恋人が、いたのか。
まさかの事実は、神崎の心を大きく揺さぶった。
そんな素振り、微塵も感じなかった。恋人以前に、人と接することが苦手なのだと、そう思っていたのに。
けれど同時に、神崎は納得してしまったのだ。ああ、そうか、と。
自分のことを避けていたのは、照れていたからじゃない。
好きな人は他にいるから困る。そういう意味での、避け方だったのだ……と。
立ち止まったまま、神崎は軽く、自嘲した。