不器用ハートにドクターのメス
神崎は、人に愛想をふりまくということをしない。厳しく当たるし、辛辣な言葉も吐く。
それでもなお信頼を得ており、神崎のことを悪く言う人間がいないということは、神崎の発言や行動が間違っていないからであろう。
堂々と自分の意見を言えて、間違うことなく、他人に認められる人間。
怒鳴られることだけが怖いのではなく、そういう自分とかけ離れた人間性にも、真由美は萎縮してしまうところがあった。
そんな神崎が、自分に向かって乱暴な足取りで近づいてくるものだから、真由美は内心、恐慌に陥っていた。
どうしよう、なんて言えば。電気を点けなくてすみませんと謝るべきか、そうですよね点けるべきですよねと同意するべきか、はたまたまずは挨拶をするべきか。
ドッドッと激しい鼓動を刻む心臓を抱えながら真由美は悩み、ぎゅっと強く眉根を寄せる。
必死で言葉を絞りだそうと焦っているとき、自分はとてつもなく反抗的な顔つきになってしまっているらしいが……何にせよ焦っている状態なので、顔を変えようと意識することなどできるはずがない。
何も言えずにいるうちに、神崎は、真由美のすぐそばに来て足を止めた。
真上と表現していい位置に立ち、青白くともっているパソコン画面をのぞき込む。
「……なんだこれ。マニュアルか」
神崎の問いかけに、真由美は本日の初リアクション、うなずきを返す。
はい、と返事もしたつもりなのだが、小さすぎた上にこもっていたため、人の耳に聞き取れる音として成立しなかった。