不器用ハートにドクターのメス

「……ふーん。真面目だな」


神崎の感想に、次はうなずきではなく、一度だけ首を横に振る。

真面目なんかじゃないです。要領が悪いだけなんです。十分すぎるくらい予習しておかないと怖いんです。

心の中ではたくさん言葉が浮かんでいるものの、それらは決して、外に出てきてはくれない。

言葉を出すためにくちびるを割り開く行為は、真由美にとってはいつだって、厳重なカギがついた鉄製の扉を開くかのように重く、難しい。

焦りながら、真由美は思う。

雲の上のお人である神崎先生が、わざわざわたしなんかに声をかけてくれているのに、さっきからだんまりを決め込んで、わたしはなんて失礼なことをしているんだろう。

でも、声をかけてくれたということは、きっとなにかしら用事があるはずだ。

次。次に本題の用事を申しつけられたときこそは、ちゃんと言葉を発しよう。

そう構えていたのだが、その後、神崎は一向に何も言ってこない。

黙ったまま、パソコンに向き合っている真由美に、視線を投げかけてくる。

……わたし、なにかおかしいだろうか。

ものすごく見られているような気がして、真由美は固まったまま、その視線の理由を自分に探す。

もしかして、髪がハネてるとか?いや、朝見たときはいつも通り揺るぎない直毛だった。じゃあ、なんだろう。このパソコンを使いたい、とか?

とりあえず、このまま視線を注がれ続けていては、身がもたない。


「あの……」


たっぷり十数秒間黙ったあと、真由美は決死の思いで、声をしぼり出した。


「なにか、ご用で――」
「それ、まだしばらくかかるか」

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