不器用ハートにドクターのメス
真由美はおそるおそる、試すような気持ちで、ドアノブに手をかけた。
ドアノブは回り、ドアは開いた。
開いたすき間に半分だけ顔を入れ、そうっと様子を伺ってみる。
神崎は、中にいた。中にある簡易イスに腰掛け、何かの書類を触っていた。
ドアの向こうからぬうっと出現した真由美の姿を見て、神崎は一瞬、とても大きく目を見開いた。
けれどその目はすぐに伏せられ、視線は別の方向に逸らされる。
「し、失礼します……っ」
何度も礼をしながら、真由美は一歩だけ、宿直室の中に踏み込む。
背後でドアが、ぱたんと軽い音をたててしまった。
「……なんだよ」
「あ、あの……っ、」
挨拶をするだけのつもりだったのに、とっさに部屋に入ってしまった。
しかも不機嫌そうな神崎を前に、真由美は焦った。
少し顔を見られたらと。声が聞けたらと思って。
そんな本音をとてもじゃないが言い出せる雰囲気ではなく、頭が真っ白になった真由美は、こんなことを口走っていた。
「あの……っ!こ、ここ数日、避けてしまったりして、すみませんでした……っ!!」
べこっと効果音がつきそうなくらい体を折り曲げて、謝罪の礼をする。
こんなことを言うつもりではなかったが、自分の都合で勝手に避けたことを申し訳なく思っていたことは事実だ。
数秒その姿勢でいたものの、言葉は返ってこなかった。
こわごわと顔を上げて、真由美は固まった。
「……それで?」
視線の先にいる神崎が、とても、冷たい目をしていたからだ。