不器用ハートにドクターのメス
ショックでしばらく動けなかったものの、いつまでもドアの前を塞いでいるわけにもいかず、真由美はやっと歩き始めた。
足下が、ぐらつく。
心臓が、弾むのとも緊張とも違う鼓動を刻む。震えている。
離れなきゃ、と、真由美は思う。
離れなきゃ、ここを。
はやく、と思う。
はやく、誰にも見られないところに、はやく。
「は……っ、」
階下の器械が保存してある物品庫にやっとたどり着き、その中に入った瞬間、真由美は熱い息を吐き出した。
それと同時に、涙がこぼれた。
「ふ……、」
必死でこらえていたせいで、吹き出すように、目頭からも目尻からも、勢いよくこぼれた。
……そっか。
心の中で、真由美はその言葉を繰り返す。
そっか。なあんだ、そっか。
神崎先生にとっては、わたしのことは、遊びの一つでしかなかったんだなぁ。
衝撃的なウワサを聞いてしまったことにくわえ、先ほどの神崎の冷たい態度は、真由美にそう自覚させるのに十分すぎるほどだった。
キスしたあとのわたしの態度があからさまだったから、わたしの気持ちは、きっとダダ漏れだったんだ。好きになられたから、それでおしまい。
神崎先生からしたら、わたしなんか、簡単だっただろうな。
たまにはちょっと変わり種も面白いかと思って声をかけて、でも、中身があんまりにもしょうもないから、付き合おうとも思わなかったんだな。
取っちゃ食い、しようとも、思われなかったんだな。