不器用ハートにドクターのメス

ちょうど被せて、神崎が言った。

神崎が”それ”とアゴでしゃくったのは、マニュアルが表示されたパソコンの画面だ。

イエスかノーの回答なので答えやすく、真由美はまだ抵抗少なく、自身の薄いくちびるを開く。


「……いえ。もう一通りは見ました……」

「じゃ、ちょっと付き合え」


その答えを聞くやいなや、神崎は、まるで番長が生意気な後輩を体育館の裏に呼び出すかのように、右手の親指を立て、自分の側に軽く振り上げ、そう言った。

そして、真由美の了承の返事を聞くこともせず、出口に向かって歩き出してしまった。

……つ、付き合えって。

自分の置かれた状況をちっとも理解できず、真由美はひどく狼狽した。

どうしよう。どうしよう。混乱の言葉を心内で数回繰り返したところで、とりあえず神崎について行かねばならないと判断する。

急いでパソコンの電源を落とすと、真由美は駆け足で事務室を後にし、ずいぶん先に進んでしまった神崎の背中を、必死で追いかけた。





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