不器用ハートにドクターのメス
相手がいる時にはそうはいかないが、自分一人の時は、良いものを食べなくてもいい。
神崎がものを食べるのは、大げさに言えば、オペの体力をつけておくための手段にすぎなかった。
ある程度カロリーが高く、かつ胃もたれしないもの。
その点を満たしているので、神崎の晩飯は、コンビニの幕の内弁当一択であることが多い。
多いはず……なのだが。
「なんでこんなもん買ってんだ俺は……」
コンビニに寄ったあと自宅に戻り、テーブルの上にばさりとコンビニ袋を落とした神崎は、苦々しげにそう、つぶやいていた。
先ほどあれだけ前置きしておいて何だが、神崎が持ち帰った袋の中身は、いつもの幕の内弁当ではなかった。
弁当ですらない。パンケーキだ。
追記しておくが、神崎は普段、こういう菓子系のものは好まない。
食事とは何かしら塩辛いものであるべきだという概念を持っている上、神崎がこのようなものを食べるのは、真由美と二人で出かけた時以来である。
……そう。
神崎は、真由美のことばかり考えるあまり、ついこのパンケーキに手を伸ばし、気がつくとつい、レジへと運んでいたのだった。
買ってしまってから、神崎は自分の行為に愕然とした。
そして、さっきのセリフに繋がる、というわけである。
敷かれているカーペットの上に腰を下ろすと、神崎は憎らしい気持ちで、袋からパンケーキを取り出す。
まんまるい、黄金色の物体。よい色に焼かれたそれは二枚組になっており、間にハチミツジャムとやらがサンドされているらしい。