不器用ハートにドクターのメス

ハチミツジャムって……食す前から胸やけを覚え、神崎は息をつき、いったんパンケーキを机に置くと、つい数日前の出来事を思い起こす。

数日前。真由美が突然、神崎の宿直室を訪問してきたときのことだ。

あの時、神崎は真由美が自分の元へ訪れるなど、全く想像していなかった。

それまでずっと避けられていたし、その上彼氏と仲睦まじく歩いている様子を目撃してしまって間もなかったからだ。

神崎は、今まで失恋というものをまともにしたことがない。

初恋もまだだったのだから、当然といえば当然だ。

まだ明確に初失恋する心づもりができていなかった神崎は、唐突すぎる真由美の訪問に、うまく対処できなかった。

そしてとっさに、とても冷たくあしらってしまったのだった。


『話は、それだけか?』


ひどい態度をとった、自覚はあった。

もうちょっと言葉があっただろうとか、うまい対応が考えられなかったのかと、何度も後悔した。

手のひらが痛いと思ったら、無意識のうちに拳を固くし、手のひらにツメを食い込ませてしまっていた。

福原のことを考えると、自分が自分でないかのように、心の中が荒ぶってしまう。

息を吐き、神崎は苦味を伴った表情になる。


……福原は、宿直室に来たあの時、何か言おうとしていた。

避けていて悪かった、に続く言葉は、きっと俺の気持ちには答えられないという類のものに違いない。

俺は、面と向かって振られることが怖いのか。


自分に問いかけて、神崎は失笑したくなる。まさにその通りだと、改めて自覚したからだ。

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