不器用ハートにドクターのメス

自分が陥っている状況に、神崎は深々と嘆息する。

息と一緒に、この煮詰まった思考も出て行ってくれればいいと、神崎は思う。

我知らず、くちびるの端に苦笑めいたものを浮かべた神崎は、その時ふと、あることを思い出した。

カバンの中から、二枚の紙を取り出す。

それは、師長から渡された、勤務表だった。

自分の分を後回しに、神崎はオペ看の勤務が印刷された紙の方に、視線を落とす。


“福原真由美”


意識するまでもなく、まるで目が吸い寄せられたように、一瞬で真由美の名前を見つけてしまう。

名前を見ただけで勝手に切なくなるのだから、もう末期だ。

そんな思いを抱いてすぐ、神崎は小さな驚きに見舞われる。

真由美の名前欄に続く勤務予定に、” 深 ”という文字が入っていたからだ。

“ 深 ”は、午後11時からの勤務であることを示すマークだ。


……あいつ、夜勤決定したのか。


無意識に顎に手をやり、神崎は感慨深くそう思う。

新人オペ看は、最初から夜勤に入ることができるわけではない。

よく行われるとされているオペに全て入り、それらのオペをある程度こなせると周りに判断されてからでなければ、夜勤には入れないのだ。

つまり、夜勤が決定したということは、十分戦力になると認められたということだ。


……頑張ってるんだな。


勤務表をテーブルに置き、神崎はわずかに目を細める。

福原は自己評価が限りなく低いが、その評価は違っている。

あいつはオペに入るたびに、ちゃんと力をつけている。

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