不器用ハートにドクターのメス

ドクターの中で、ダメな新人オペ看はすぐに愚痴で名前が挙がることがあるが、そこに福原の名前を聞いたことはない。

真由美が周りからも認められ始めていることを、神崎は自分のことのように嬉しく思い、そしてまた再び、切ない気持ちにさいなまれた。

テーブルに投げ置いていた、パンケーキを持ち上げる。

一緒に出かけた日、クマ型のパンケーキになかなか切り込めずにいた真由美を、思い出す。

悩みに悩んだ末、申し訳なさそうにそっと耳から切っていく様子に、思わず顔をほころばせたものだ。

自分が福原に対して抱いている感情に、気づくことができたのは、ついこの間だ。

だというのに、何かにつけて福原を思い出してしまう。関連づけてしまう。

こうして、好きでもないパンケーキを選んで買ってしまうという、愚かしい行為に及ぶほどに。


……恋とは、本当に厄介なものだ。


顔をゆがめた神崎は、やっと袋を両手で持ち、開封する。

そして、パンケーキを一口、引きちぎるように口に入れた。

ハチミツの独特の甘みが、口内を支配する。


「甘……」


苦情を訴える声でつぶやき、神崎は首をもたげる。

もう一度、テーブルにある勤務表を見る。そして、自分が今、頑張っている福原にできることはなにかと、考える。

考えは、すぐにまとまる。


自分が唯一、福原にしてやれること。

それは――恋情を捨てることだ。


自ら断頭台に上るような気持ちで、神崎は目を瞑り、答えを導き出していく。

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