不器用ハートにドクターのメス
あいつには、恋人がいるのだ。
そこに踏み込んで、困らせて、ただでさえいっぱいいっぱいなところをかき乱すような真似は、絶対にしたくない。
すっぱりと想いを断ち切るべきなのだ。
ただの、部署が一緒のドクターに戻るべきなのだ。
あいつがもう、仕事以外のことで、無駄に思い悩むことのないように。
目を開ける。終わらせられると、神崎は自分に言い聞かせる。
自分は今まで、恋愛における執着心なんて、ほとんど持たない人間だったはずだ。
来るもの拒まず、とまで歓迎はしないが、去る者を追うことは、絶対にしなかった。
前に戻ればいいだけ。引き際は心得ている。想いを一つ自分の中で昇華させることくらい、きっと簡単だ。なんてことはない。
頭の中で繰り返すが、胸はくすぶるように痛かった。
もう一口、パンケーキをかじる。
胸の痛みにも、ハチミツの甘さがしみるようだと、神崎は思った。