不器用ハートにドクターのメス
窓から差し込む光が、真由美の左半身を照らす。
けれどその光にはもう真夏の強さはなく、どことなくぼんやりと、主張のない色をしている。
神崎と話さなくなった二週間の間に、季節はいつのまにやら、すっかり秋へと、籍を移していた。
昼間はあたたかいが、朝と夜は肌寒い。この時期の夕暮れ時、非常階段に出て座っていようものなら、きっと身震いを起こしてしまうだろう。
……あのときはまだ、暑かったのに。
先ほどはこらえたため息をとうとう漏らし、真由美は肩を落とす。
神崎に呼ばれ、非常階段での喫煙に同行したあのとき。
極度に緊張しながら隣に座らせてもらった出来事が、今では夢だったかのようだ。
車にのせてもらえたことも、一緒に出かけたことも、キスも、全部、夢の中の出来事だったのかもしれない。
最近出くわさないから、もしかしたら、先生の存在自体がわたしの妄想なんじゃないかーー
真由美がそんな風に怪しく考えを煮詰め、廊下に出たときだった。
ふいに視線をやった窓の外に、真由美は
、実在する神崎の姿を見つけてしまった。
見下ろした地上。神崎は、もう一人のドクターと連れ立って、西館へと向かっているようだった。
視線は神崎に吸い寄せられ、真由美は無意識のうちに数歩、窓へと歩み寄ってしまう。
……あ、笑ってる。
わずかに見えた横顔はくしゃりとゆるんでいて、その光景は、真由美の心を強く締め付けた。
締め付けられる以上に、胸が痛かった。ちくり、なんて可愛らしいものでない、熱されたような鋭い痛みだった。