不器用ハートにドクターのメス

恋をすると、涙腺が弱くなる。

一度味わってしまったときめきを夢と思い込むことも、恋心をすっぱりとなかったことにして、あきらめることも、難しい。

つい最近、真由美はそれらのことを知った。

そして、何事においても、初めて挑戦する時というのは、ひどく緊張してしまうものだ。

真由美は今、改めて、そのことを実感じている。


「ふう……」


午後十時十五分すぎ。

待機室のソファに一人ちょこんと腰かけた真由美は、本日何度目かになる、自分を落ち着かせるためのため息を吐いていた。

ふう、はあ、といくら音を変えて吐いてみても、体に響く鼓動がおさまる気配は、まったくない。

ため息と一緒にうっかり心臓まで出てきてしまいそうで、真由美はつばを飲み込むと、落ち着きなく、あちらこちらに視線をさまよわせる。


それにしても、なぜ真由美が、こんな遅い時間に病院にいるのか。


それは、今夜初めて、夜勤帯の業務に入ることになったからであった。

祝・夜勤デビュー。夜勤にて行うのは、日勤業務とは違い、全く予測がつかない、スケジュールの定まらない業務だ。

緊急で患者が運び込まれてくるかもしれない。その患者が、どんな症状でどんなオペ適応になるかは、緊急連絡が入るその瞬間まで未知だ。

なので、どのオペにも対応できるようになってからでなければ、新人オペ看はシフトに組み込んでもらうことができない。

自分にまだまだ自信がない真由美は、夜勤に入れてもらえたという事実に驚き、そして、気後れしていた。

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