不器用ハートにドクターのメス
わたしなんかで、大丈夫なのだろうか。この時間に病院にいることが、今の今でもまだ、信じられない気分だ。
いつものように前もって予習しておけないことに、真由美は強くプレッシャーを感じていた。
……いきなり患者さんが飛び込んできて、ほんとにすぐつけるのかな、わたし。
制服のすそをぎゅっとつかみながら、真由美は壁時計を見上げる。
針は少し歩みを進めており、午後十時四十分。
夜勤は、午後十一時開始だ。夕方からのオペの引継ぎはなかったが、逆にこれから何があるかわからないという無の時間が、恐怖を助長していく。
とりあえずなにかしら勉強しておこうかと考えるが、どのオペに絞って復習すべきか、考えがまとまらない。
今勉強しても、きっとろくに頭に入らないだろう。
ちりちりと、ゆっくり寿命が削られていくような感じを覚えながら、真由美は腰かけていたソファから立ち上がる。
「……あ」
と同時に、カタンと音がして、もう一人の夜勤オペ看、山下菫が待機室に入ってきた。
真由美と目が合い、山下は若干怪訝な表情になる。
夜勤帯に入るオペ看は、基本二人のみだ。
そして、新人が最初に夜勤に入るときのペアは、経験年数が4年以上のオペ看と決まっている。
しかも山下は一応真由美の教育係にあたっているため、山下・福原ペアでシフトが組まれたことは、ごくごく自然なことだった。