不器用ハートにドクターのメス
教育係といっても、山下と真由美は、業務連絡でしか言葉を交わしたことがない。
山下は、常に不機嫌そうに見える真由美を、生意気で扱いにくい新人だと思っており、できれば関わりたくないという態度を、この数カ月ずっと貫いていた。
「……よろしく」
「よろしく、お願いします……」
最低限の挨拶を交わした後、いつものごとく、山下はさっと、真由美から目線を逸らした。
自分が相手に威圧感を与えてしまっているだろうことは、今までの人生経験から理解しているので、真由美はさっそく申し訳なく思う。
入職当時、山下が自分について話しているのを、真由美は偶然聞いてしまったことがある。
『指導にあたっちゃった新人、超ハズレなんだけど。替えてほしいわ』
それを聞いてから、引け目を感じ、よけいに山下との関わりがうまくいかなくなってしまったのだった。
「改めて説明しておくけど」
無表情の山下は、そう前置きをして、早口で続けた。
「夜勤業務は、二人体制。緊急オペが入ればつかなきゃならない。入らないときは、明日以降のオペの器械準備をするからね」
「はい」
「準備さえ終われば後は寝てようが何してようがいいから。じゃ、早速器械準備から取りかかるよ」
互いに目を合わせないままある程度計画を立てたあと、山下と真由美は、二人で物品庫に向かった。
緊急搬送がない間の深夜帯は、とても静かだ。
昼間には窓からの光をたっぷりと浴び、ファンデーションを塗ったような明るい肌色を自慢げにさらしていた廊下も、この時間においては、とても控えめなものに映る。