不器用ハートにドクターのメス
ちらっと横目で見ると、神崎の目が充血していることに気づく。
本当にお疲れさまです……と、真由美は心中で、労りの言葉を述べた。
疲れているだろうし、用事を頼み終えたのだから、きっとすぐに帰るのだろう。
そんな真由美の予想に反し、神崎はなぜか、旧書庫を出て行かなかった。
「……お、これちょうどいいな」
そうつぶやくと、そばにあった足台の上に、どかりと腰を下ろしたのだ。
どうやら、真由美が作業を終えるまで、ここにとどまるつもりらしい。
その行動に、真由美はひどく驚かされた。
残念ながら……真由美は、他人から二人きりになることを嫌がられてしまう女だ。
部屋に真由美が入ると、先客は逃げるように出て行くし、エレベーターの場面でも、先に真由美が乗っていると、他の客は乗り込んでこない。
元からそんな顔とは言え、顔面からかなりの不穏な空気を発しているのだから、当然といえば当然であろう。
なので、神崎がここにとどまる選択をしたことは、真由美にとって驚きでしかなかった。
……先生は、わたしと二人きりで、嫌だったりしないのだろうか。
雑誌を手に取り、棚のあるべき場所に入れ込んでいく作業に取り掛かりながら、真由美は考える。
……いや、先生はわたしの存在なんて、特になんとも思っていないのだろう。
ここを出て行かないのは単に、ちゃんと雑誌を戻すかどうかが心配なだけなのだ。
今までの人生23年間で、真由美は幾度か、打ち解けた人間から「犯罪者みたいな顔だよね」と言われたことがある。
そんな顔をしている自分だから、雑誌を適当なところに突っ込んだり、床に放ったりしかねないと疑われても、致し方ない。