不器用ハートにドクターのメス
抱いた疑問に答えを見出すことができ、真由美は少し心を落ち着ける。ところが。
「なあ、福原」
すぐに神崎に声をかけられたものだから、心臓はまた飛び跳ね、真由美ははっと息を呑んだ。
ただでさえ大きすぎる目を見開いて、振り返る。
矢を射抜くような瞳が真っすぐ自分に向かっていて、真由美は息だけではなく、ごくりとツバも呑み込んだ。
「お前さ。日勤のとき、いっつもこんな早く来てんの?」
「……え……」
はい、と、質問に即答することはできなかった。
わたしの存在なんて特になんとも思っていないーーそう結論づけたばかりだというのに、神崎がわざわざ自分に関する質問をしてきたことに、大いに困惑したからだ。
そもそも真由美は、人から話しかけられるということに慣れていない。
教育指導係の山下でさえ、話しかけてくるのは、業務連絡があるときだけなのだ。
意図をはかりかねながらも、何もリアクションしないのは失礼だと、真由美はぎこちない頷きを返す。
その様子を見て、神崎は少しだけ眉尻を下げた。
「すごいな。何時に起きてんだ」
「ご……5時前です」
「5時前!?ばーちゃんかよ」
回答が予想の範疇を超えていたのか、神崎は目を丸く見開くと、少し前かがみの姿勢になって興味を示す。
真由美は虚をつかれたような気分になり、とっさに視線を逸らすと、神崎に背を向けてしまった。
ドク、ドク、と鼓動一つ一つが、大きく明確に鳴り響く。
これまた失礼になってしまうと向き直ろうとしたが、先ほどの鋭い目線が飛んできているかと思うと、怖くて振り返ることができない。