不器用ハートにドクターのメス
医学雑誌を収納し終えるまでは、時間にして、ほんの10分少々だった。
けれど、沈黙とこの旧書庫独特の密閉感のせいで、真由美には、その何倍にも長く感じられた。
のしかかるのは、まるで、敏腕刑事からたっぷり2時間ほど尋問を受けた後のような疲労感である。
そして、作業自体は終わったものの、真由美は未だ、刑事から解放された気分にはなれなかった。
積み上げていた雑誌がなくなり、明らかに収納が終わったことがわかると思われるのだが、背後にいる神崎は、何も言ってこないからだ。
……終わったと気づいていないのだろうか。
本棚に向き合ったまま、真由美は息をころして、後ろの気配をうかがう。
しかし、やはり何もリアクションはなさそうだ。
再び目を合わせることは怖いが、だからといって、声をかけられるまでこのまま突っ立っているわけにもいくまい。
そう考え、おそるおそる振り返ったところで……真由美は思わず、拍子抜けの声を上げてしまった。
「え……」
そこに、予想していた鋭い眼光はなかった。
なんと、神崎は眠っていた。
足台の上に座り、腕組みをし、こうべを垂れて、すやすやと寝息を立てていたのだ。
無言を貫いていたわけではなく、いつの間にやら眠りに落ちていたらしい。
あまりに無防備なその姿に、真由美は驚き、なぜか挙動不審に辺りを見回すという、謎な行動をとってしまう。
再度、神崎を見つめる。
大きな体は脱力しており、くちびるが、ほんの少し開かれている。
歩いている際にはばたばたとせわしない動きを見せる白衣も、今はただ大人しく、重力に従っている。