不器用ハートにドクターのメス

「気の迷いだった」と言われる心配は減っている。

けれど……月日が進んだら進んだでまた、新たな悩みが出現してしまうものなのだ。


『……明日。9時半ごろ、迎えに行く』


再び一人きりになった事務室内。先ほどささやかれた神崎の言葉を思い出し、真由美はマウスから手を離すと、悩ましげなため息をついた。

明日明後日の休み。真由美は神崎と、初めての旅行に出かけることになっている。

一泊二日の温泉旅行。それを提案したのは、神崎の方だ。

本当はクリスマスに休みを合わせてディナーをする予定だったのだが、シフトの関係上、休みが取れそうになかった。

そこで代わりに、「クリスマス前に旅行でも行くか」と、代替案を出してくれたのである。

神崎からそのような提案をしてくれたことも、神崎と長く一緒にいられることも、真由美はとても嬉しく思っている。

思っているの……だが。


……泊まりってことは、やっぱり、そういうことだよね……。


頭の中に浮かんだ考えに、真由美はもう一度、静かに息を漏らした。

付き合って3か月。神崎と真由美は、いまだキスどまりの、プラトニックな関係を続けている。

真由美にとって、神崎は正真正銘初めての恋人だ。

経験値が低く奥手な自分に、経験豊富な神崎が合わせてくれているであろうことは、明示されずともわかっていた。

< 230 / 260 >

この作品をシェア

pagetop