不器用ハートにドクターのメス
「気の迷いだった」と言われる心配は減っている。
けれど……月日が進んだら進んだでまた、新たな悩みが出現してしまうものなのだ。
『……明日。9時半ごろ、迎えに行く』
再び一人きりになった事務室内。先ほどささやかれた神崎の言葉を思い出し、真由美はマウスから手を離すと、悩ましげなため息をついた。
明日明後日の休み。真由美は神崎と、初めての旅行に出かけることになっている。
一泊二日の温泉旅行。それを提案したのは、神崎の方だ。
本当はクリスマスに休みを合わせてディナーをする予定だったのだが、シフトの関係上、休みが取れそうになかった。
そこで代わりに、「クリスマス前に旅行でも行くか」と、代替案を出してくれたのである。
神崎からそのような提案をしてくれたことも、神崎と長く一緒にいられることも、真由美はとても嬉しく思っている。
思っているの……だが。
……泊まりってことは、やっぱり、そういうことだよね……。
頭の中に浮かんだ考えに、真由美はもう一度、静かに息を漏らした。
付き合って3か月。神崎と真由美は、いまだキスどまりの、プラトニックな関係を続けている。
真由美にとって、神崎は正真正銘初めての恋人だ。
経験値が低く奥手な自分に、経験豊富な神崎が合わせてくれているであろうことは、明示されずともわかっていた。