不器用ハートにドクターのメス

ストレートの黒髪に、白い肌。ほっそりとした体。

相手を気圧してしまうような、印象の強すぎる顔。

それはどこからどう見ても、待ち人である真由美だった。


「……先生っ!おはようございます……!」

「……なに持ってきてんだそれ」


助手席のドアを開けた真由美に、神崎はさっそく、おはようをすっ飛ばしてツッコミを入れてしまっていた。

真由美の両手には、かなり大きな、丸太のように膨れ上がった旅行バッグがぶら下がっていた。

見た目から考えて、ゆうに三泊はできそうなサイズである。


「え、えっと……バスタオルと、パジャマと……あと、ドライヤーと……」

「んなもん旅館にあるぞ」

「えっ!」


驚き顔を見せた真由美に、こいつはどこまで天然なんだと、神崎は半分あきれ、半分笑ってしまう。

隙がまったくなさそうな外見とは逆で、真由美には少々ぬけているところがある。

ぬけているというか、何事にも勤勉で礼儀も備わっているのに、世間一般の常識にはうとかったりするのだ。

それは違う、それはこうだと教えてやる度に、そうだったんですか!と大げさに反応するところもまた可愛らしいと、神崎は思っているのだが。

心配性な真由美のことだ。今回も、必要になるかもしれないものを隅々まで想像して、そのすべてを入念に、前日までに準備していたのだろう。

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