不器用ハートにドクターのメス
肩をたたいて起こそうと、考えていた。
ずいぶんハードルが高い行動のように思えるが、超ド級に口ベタな真由美にとっては、声を張り上げて起こす方法よりも、いくらか易い方法だった。
それに、大声よりも軽く触れるくらいの方が、神崎が驚かずに目覚められるだろうと思ったのだ。
及び腰の姿勢で、のろのろと指先を進める。
はやる心臓をなんとか抑えながら、白衣の肩口に触れようとしたーーそのとき。
「んあ……」
「……っ!?」
何の前触れもなく、神崎の目が開いた。
と同時に、神崎は真由美の手を、がしりと掴んだ。迫ってくるものを止めようという、反射的な動きだった。
「え……っ、」
そのままぐっと引き寄せられ、真由美の体が傾く。
準備していなかったせいで、簡単に膝が折れる。
目の前に白が迫りーー次の瞬間、とさっと、軽い衝突音がした。
真由美は、息を止めた。自分が神崎の胸元に飛び込んでしまったことを、耳に直接流れ込んでくる、力強い鼓動の音で知った。
音の次に、感触。しっかりと筋肉を携えた胸の厚み。それから、匂い。消毒液と、タバコが混じったような。
「あ……」
真由美には、今まで全く、男性経験というものがなかった。
お付き合いしたことなどなければ、抱きしめ合ったことも、手をつないだことすらない。
いっそ、まともに会話をしたことがない。
なので、唐突に五感に感じさせられた“男”というものに、真由美は大きなパニックを引き起こしていた。そして。
「あー、わり……寝てた……」
「……っ、」