不器用ハートにドクターのメス
「え?」
「だって、部屋のお風呂……結局入ってない……」
自分が布団に逃げたりまごついたりしたせいで、部屋付き露天風呂の存在をすっかり忘れてしまっていた。
今の今まで忘れていたが、気づいてみるとものすごくショックで、申し訳ない気持ちが込み上げる。
ああいったオプションがついた部屋はきっと通常より高いのだろうし、先生は入るのをすごく楽しみにしていたのかもしれないのに。
落ち込む真由美の耳に、「そんなもん」と神崎の低い声が響いた。
「別にいい。入りたかったら、これから何回でも来ればいいだろ」
「……!」
――これから何回でも。
そのセリフに、真由美はときめきと同時に、目の奥にツンとしたものを感じた。
初めての両想いに、初めての交際。どこかでずっと、ある日突然先生の目が覚めて、別れを切り出されてしまうんじゃないかという不安があった。
でも、先生の中には、自分とのこれからがあるんだ。今後があるんだ。
少し残っていた不安も、あたたかい日の光に溶けるように消えていく。
幸せだなぁ。自分にはもったいないくらいの、幸せだ。
噛みしめるように、真由美は思う。
クマーヌに囲まれると可愛い女の子になれる気がするように、先生の隣にいると、どんどん素敵な女性になっていける気がする。
大好きな人が、自分を好きでいてくれること。一緒にこれからを、描いてくれること。
その幸せはきっとこれからも、わたしを強くしてくれる。