不器用ハートにドクターのメス
低くかすれた声が耳元に降ってきた瞬間、真由美の中で、何かが爆発した。
「~や……っ!!」
真由美は声を上げ、思いきり、神崎を突き飛ばしていた。
バネのように足を使い、反動で立ち上がる。全身の血が、沸騰していた。
足台から落ちることはなかったものの、胸元に一撃くらわされた寝起きの神崎は、呆然とした顔で真由美を見上げる。
「す……っ、」
……果たして「すいません」と、しっかり言い切れたのか、言えなかったのか。
それもわからないくらい混乱していた真由美は、くるりときびすを返し、ものすごい速さで旧書庫を飛び出した。
その勢いは、まるで弾丸のようだった。
「……え?」
一人取り残された神崎の驚きの声は、弾丸と化した真由美には、聞こえなかった。
真由美には、わからなかった。
自分が今、どれだけ真っ赤な顔をしていて、瞳はうるんでいて……あたかも、事後であるかのような表情をしているということに。
このときの真由美は、もうただただ恥ずかしく、どうしていいかわからず、大学病院の長い廊下を、全速力で突っ走っることしかできなかった。