不器用ハートにドクターのメス

……なんだ、今のは。

ザッ!と効果音がつけられそうな鋭く短い礼をして去っていた真由美の後ろ姿を見送りながら、神崎は首をひねった。

わざわざ接触してきたかと思えば、だれかに無理矢理言わされているかのようなぶっきらぼうな口振りで、しかも早口。

悪いなどと思っていなさそうな態度なのに、なぜわざわざ謝りに来たのか。俺に弱味を握られたくなかったのか?

いろいろと考えてみるが、全部、どうもしっくりこない。

凶悪なにらみを利かせた顔。昨日の真っ赤な顔。さきほどの仏頂面。

情報が渋滞して、一つ一つが個体の人間として結びつかない。


生まれた疑問は完全に解決しなければ、すっきりしない。


それからというもの、神崎は、真由美のことを注意深く観察するようになった。

一週間以上観察を続けてわかったことは、まず、真由美が必ず早朝出勤しているということだ。

夜勤明けや少し早めに着いた朝、事務室をのぞいてみると、真由美は必ずそこにいる。

電気を点けずに、薄暗い中に身を置いて、パソコンに向き合っている。

次に、たいてい一匹狼だということ。

オペ看には男性スタッフも多いが、看護師という職業柄、比率的にはやっぱり女性が多数をしめる。

なので、休憩時や定時過ぎには群れてくっちゃべっていることが多い印象があるが、真由美に限っては、いつ見ても一人で行動している。

だれかに話しかけるところも、話しかけられるところも見たことがない。

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